夏目漱石の俳句
季語のリンク先には例句・貫田峰句を集めてみました
目次
春
思ふ事只一筋に乙鳥かな
白き皿に絵の具を溶けば春浅し
永き日や欠伸うつして別れ行く
断礎一片有明桜ちりかゝる
瑠璃色の空を控えて岡の梅
夏
五月雨や小袖をほどく酒のしみ
脱いで丸めて捨てて行くなり更衣
時鳥厠半ばに出かねたり
駄馬つづく阿蘇街道の若葉かな
峰の雲落ちて筧に水の音
秋
秋の川真白な石を拾ひけり
(秋の川)
秋の蝿握つてそして放したり
(秋の蝿)
柿一つ枝に残りて烏哉
(柿)
赤い哉仁右衛門が脊戸の蕃椒
秋風の一人を吹くや海の上
秋高し吾白雲に乗らんと思う
秋立つや一巻の書の読み残し
秋の蚊の鳴かずなりたる書斎かな
秋の山南を向いて寺二つ
朝貌や咲た許りの命哉
有る程の菊投げ入れよ棺の中
馬の子と牛の子と居る野菊かな
鐘つけば銀杏散るなり建長寺
今日よりは誰に見立てん秋の月
草山に馬放ちけり秋の空
ただ一羽来る夜ありけり月の雁
日あたりや熟柿の如き心地あり
客人を書院に寝かす夜寒哉
引かで鳴る夜の鳴子の淋しさよ
風呂に入れば裏の山より初嵐
本名は頓とわからず草の花
冬
降る雪よ今宵ばかりは積もれかし
雪の日や火燵をすべる土佐日記
行く年や猫うずくまる膝の上
ゆく年や膝と膝とをつき合わせ
半鐘とならんで高き冬木哉
人に死し鶴に生まれて冴え返る
星一つ見えて寐られぬ霜夜哉