夏
汗疹して娘は青草のにほひかな
あせもしてこはあおくさのにおいかな
夏・秋
ことごとくつゆくさ咲きて狐雨
『あ』行
秋虹をしばらく仰ぐ草刈女
飯田蛇笏
秋の昼一基の墓のかすみたる
飯田蛇笏
稲すずめ大菩薩嶺はひるかすむ
飯田蛇笏
芋の露連山影を正しうす
飯田蛇笏
『か』行
くろがねの秋の風鈴鳴りにけり
飯田蛇笏
黄落のつづくかぎりの街景色
飯田蛇笏
『さ』行
霜降の陶ものつくる翁かな
飯田蛇笏
新月や掃きわすれたる萩落葉
飯田蛇笏
すたすたと宵闇かへる家路かな
飯田蛇笏
『た』行
たましひのたとへば秋のほたる哉
飯田蛇笏
天をとび樋の水をゆく蒲の絮
飯田蛇笏
唐黍をつかみてゆるる大鴉
飯田蛇笏
『な』行
にぎやかに盆花濡るる嶽のもと
飯田蛇笏
『は』行
人遠く胡麻にかけたる野良着かな
飯田蛇笏
『や』行
夕霧に邯鄲のやむ山の草
飯田蛇笏
『ら』行
辣韮の花咲く土や農奴葬
飯田蛇笏
流燈や一つにはかにさかのぼる
飯田蛇笏