春 |
---|
雲遠き塔に上りて春惜しむ 『春惜しむ』 |
夏 |
夏真昼死は半眼に人を見る 『夏』 |
汗疹して娘は青草のにほひかな 『汗疹』あせも『青草』 娘は(こは) |
藍々と五月の穂高雲を出づ 『五月』 藍々と(あおあおと) |
月いでて見えわたりたる梅雨入かな 『梅雨の入り』梅雨入 ついり |
後架にも竹の葉降りて薄暑かな 『薄暑』 後架(こうか) |
ことごとくつゆくさ咲きて狐雨 『狐雨』きつねあめ |
緑蔭のふかき雨気に添水鳴る 『緑陰』りょくいん 添水(そうず) 雨気(あまけ) |
風鈴の夜陰に鳴りて半夏かな 『風鈴』『半夏生』 |
朝曇り墓前の土のうるほひぬ 『朝曇』 |
高浪もうつりて梅雨の掛け鏡 『梅雨』 |
秋 |
ことごとくつゆくさ咲きて狐雨 『露草』 |
緑蔭のふかき雨気に添水鳴る 『添水』そうず |
新年 |
正月の油を惜しむ宮の巫女 『正月』 |
『あ』行
秋虹をしばらく仰ぐ草刈女
秋の昼一基の墓のかすみたる
稲すずめ大菩薩嶺はひるかすむ
芋の露連山影を正しうす
『か』行
黄落のつづくかぎりの街景色
『さ』行
霜降の陶ものつくる翁かな
新月や掃きわすれたる萩落葉
すたすたと宵闇かへる家路かな
『た』行
たましひのたとへば秋のほたる哉
天をとび樋の水をゆく蒲の絮
唐黍をつかみてゆるる大鴉
『な』行
にぎやかに盆花濡るる嶽のもと
『は』行
人遠く胡麻にかけたる野良着かな
『や』行
夕霧に邯鄲のやむ山の草
『ら』行
辣韮の花咲く土や農奴葬
流燈や一つにはかにさかのぼる